逆耳順耳『蒼蒼』第94号、2000810日、1216ページ

人民元切下げ騒動と『日本経済新聞』のDVDロム

 

 七月末の東京は猛暑が続き、ビールの売り上げが伸びたと思われる。当方は八月に北京で開かれるシンポジウムにお招きを受けたので、その発表論文の執筆に翻弄され、疲労困憊である。論文を書くのは商売だから、それに苦情をいうつもりはない。その材料についての苦言である。

『日本経済新聞』は近年の新聞記事を、その姉妹紙(『産業新聞』など)を含めてDVD−ROMの形で売り出している。勤務先の共同研究室に備えたので、「人民元切下げ」騒動について、これをいかに煽り、世論をミスリードしたかを検証しようと思いついた。そこでこの新聞のダメさ加減を再確認するハメに陥った。

端的に言って、実に使いにくい。これでは電子情報としての利用価値を減殺し、結局のところ『縮刷版』にも劣ることになる。

「人民元切り下げ」のキーワードをいれると、検索結果が現れ、これはプリントアウトすることはできるが、ダウンロードはできない。これらの記事を開いて読み始める。三つ目の記事までは開けるが、四つ目を開こうとすると、「お断り」のサインが出る。そこでせっかく検索したものを閉じて、さらに『日本経済新聞』ロムを閉じる。ここで改めてロムを開き、検索を行い、記事3つをダウンロードし、閉じて、また開く。「結んで開いて」の幼児の遊びじゃあるまいに、これを3〜4回繰り返すと、いいかげんに阿呆らしくなり、もう放り出すのが普通の人々の忍耐力ではないか。

なぜこんな馬鹿馬鹿しいことを繰り返させるのか。著作権保護のため、違法コピーを防ぐためという答えが直に想定される。それは大事な事柄であり、私有物の権利を保護することを否定するつもりはない。だが、カギというのは、あまりにも複雑すぎて、その結果、その知的所有物を使おうとする者が使うのを断念させるほどに複雑なのは明らかに行き過ぎである。『電子版』編集の意味が『縮刷版』編集とまったく同じ次元で想定していることが問題なのだ。否『縮刷版』よりも後退していることが問題なのだ。『縮刷版』なら、月ごとにまとめられているので一二月をめくれは一年分の記事索引を調べ、内容を調べられる。『電子版』は、検索だけはもっと広範にできるが、その調査対象の拡大とはまさに何千倍、何万倍も反比例して記事内容から遠ざけられるわけだ。これが退歩でなくて何であろう。他方、真に違法コピーをやろうとする知能犯にとっては、この程度のカギ破りは朝飯前なのではないか。一つハッカー・クラブあたりに依頼してカギ破りを依頼してみようかしら。これはむろん冗談だが、真の泥棒にはまるで無策であり、まじめなユーザーにとって不便極まるカギなぞは、賢明なカギとはいいにくい。つまりは何をどこまで守るのか、そこをまじめに考えずにいたずらにカギを増やした話に似ている。最後のカギをしまった箱のカギを忘れて、どうにも身動きのつかない寓話に似ている。

ここで想起したが、最初期の『岩波広辞苑』もひどかった。その後、どこまで改善されたか知らないけれど、当時の電子版は、重さが少し軽くなった以上のメリットはなかった。要するに、これは「著作権保護のた め」というよりは、「利用者無視」の一語に尽きる。このような新聞が社会の公器をうたい、報道の自由などと語るのは、笑止千万である。私はレスターブラウンの中国食糧危機についての報道や人民元切下げ報道をめぐる日本のいわゆる大新聞のオオカミ少年ぶりの証拠を検索しようとしたのだが、あまりにもばかばかしいので、もうやめた。そこで思い当たり、村田忠禧データベースに救いを求めた。早速届いたものを少し整理したものが、以下の再録である。

題して、『朝日新聞』に踊る人民元切下げの妖怪19986月〜999月、村田忠禧教授の検索によるもの)

一つ一つコメントする紙幅はないので、キーワードにカスミをかけるだけにとどめる。オウム真理教のマントラか何か知らないが、このように終始一貫して「切下げ圧力」「切下げ懸念」をたたきこまれると、普通の読者はそのように思考を誤導されるのではないか。もっとも最近の若者の新聞離れは、甚だしいので思考誤導されているのは自称インテリだけかもしれない。

980609:アジア通貨の下落に拍車をかけ、中国人民元の切り下げをも招きかねない。/980612:人民元・香港ドル、市場の下げ圧力が増す、「国際公約」に揺さぶり、【香港11日=永持裕紀】980617:アジア金融危機の中で、人為的「安定」を保っている中国の人民元について、中国がいずれ切り下げに動くのではないかとの懸念が世界の通貨・金融市場で急速に強まっている。/980617:「中国はメンツにかけても年内は元を切り下げない」との見方が北京の経済関係者の間にある。今月下旬にはクリントン米大統領が訪中、来月1日は香港返還1周年行事もある。香港ドルを防衛するためにも、人民元切り下げは決断できない、という解釈だ。/980617:人民元切り下げへのシナリオとしては、(1)中国の貿易黒字が急速にしぼみ、外資導入も急減して、国際収支の悪化が表面化する(2)日米が円安の進行をこのまま放置する(3)クリントン米大統領訪中、香港返還1周年記念式典後に、中国政府が態度を変える、などが考えられる。/980617:人民元切り下げを「ドラゴンショック」と呼んで恐れる香港の市場関係者も出てきた。/980617:急速な円安が、人民元の切り下げに結びついたら、東南アジアは、再び通貨切り下げ競争に巻き込まれ、すでにマイナス成長になった各国経済をさらに冷え込ませることになる。/980617:アジア通貨・金融危機は、94年の人民元切り下げがきっかけだった。切り下げで競争力を増した中国製品が市場を席巻し、東南アジア各国の輸出減をもたらし、バブル経済の崩壊とあいまって、通貨切り下げを余儀なくされた。元が再び切り下げられれば、その悪夢が再現するばかりでなく、アジアと世界経済への打撃は一段と激しいものになる。

980618:急激な円安の進行が中国の人民元の切り下げを引き起こし、アジア発の経済混乱が再発することへの危機感が背景にある。/980619:仮に中国が切り下げに踏み切れば、アジア通貨の下落に歯止めがかからなくなるとの懸念が急速に広がっていた。/980619:円売りを放置していては、中国の人民元の切り下げをまねき、疲弊しているアジア経済をさらに混乱させる。米国の株式市場も不安定な値動きを見せ、日本が世界恐慌の震源になりかねない。/980621:人民元の切り下げ懸念が高まるなか、中国が「人民元の安定維持」を表明したことについて、声明は「地域の金融市場の安定に重要な貢献となる」と評価した。日本が国際的に公約した経済改革が進展しなければ、人民元切り下げ問題が再び浮上する危険性もある。/980621:円安はアジアの輸出拡大を阻み、人民元を含めて通貨の切り下げ競争を招きかねない。

980623:香港株が人民元の切り下げ観測に揺さぶられたように、中国と寄り添う「一国」の印象が、次第に色濃くなってきた。(香港=永持 裕紀、坂尻 信義)/980625:中国は人民元切り下げというカードをちらつかせて、米国を円安是正の協調介入に踏み切らせるなど、米中の協調姿勢を大きくアピールした。/980704:日本経済の再建が果たせなければ、中国の人民元切り下げで通貨危機の第二波は不可避だとの強い懸念を示した。/980808:7日のニューヨーク外国為替市場は中国の人民元切り下げに対する懸念や香港経済への不安を背景に円安ドル高が進み、前日夕よりちょうど2円安の1ドル=146円25銭をつけた。香港のメディアは同日、人民元のやみレートが上海で1米ドル=9.3元をつけた(東方日報)など、中国内の元売りの勢いを一斉に報じ、人民元の切り下げ観測の高まりも香港株売りに拍車をかけた。/980809:今回の香港ドル売りの特徴は、メディアや市場で、中国国内で人民元のやみレートが急落していると騒がれたことだ。一米ドル=約8.2元の公定レートに対し、9元を突破したとの報道さえあり、人民元の切り下げ観測の再燃から通貨や株売りに拍車がかかった。/980809:香港紙サウスチャイナ・モーニング・ポストは8日、中国首脳が毎年夏に河北省の避暑地、北戴河で開催する会議で、今年は人民元の切り下げ問題が討議されるとの見通しを伝えた。「切り下げはしない」という方針を堅持している朱鎔基首相に対し、国内各層から切り下げの要望が強まっているためといい、会議では円相場の動向についても話し合われるとしている。/980811:元切り下げ懸念再び──中国成長鈍化の兆し、円安進み市場動揺、【香港10日=永持裕紀】中国通貨の人民元切り下げへの懸念が再燃し、世界の金融市場が揺れている。/980811:6月に続き再び顕在化した人民元に対する切り下げの懸念の出発点は、今回も円安だ。/980812:市場では、中国の経済成長の減速感が強まるなかでの円安の進行で、中国・人民元の切り下げ観測も根強く、これがアジア各国通貨の連鎖安を招く形で、円安にはね返るとの見方も広まっている。/980812:8年ぶりの円安が中国通貨の人民元の切り下げを促すことになれば、アジア諸国の経済回復がさらに遅れ、世界経済の混乱につながりかねないとの懸念が根強い。/980812:【香港11日=永持裕紀】11日の香港株式市場は、円安の進行や人民元切り下げ懸念から売りが集中し、指標のハンセン指数の終値は前日比約254ポイント安の6779.95と、終値ベースで約5年ぶりに7000の大台を割り込んだ。/980818:17日は休場だった香港市場が下げると「中国・人民元の切り下げを連想させる」だけに、中国を巻き込んでアジアの通貨・株式市場が急落、それが欧米に連鎖する最悪のシナリオが進む可能性もありそうだ。/980818:ロシアの対外債務支払いの90日間繰り延べやルーブルの切り下げで、中国・人民元の切り下げ観測がいっそう強まり、アジア各国の通貨安に跳ね返るとの懸念が広がっている。/980818:中国・人民元や香港ドルの不安定化を通じて、アジア通貨安を巻き込んだ形で、「円安が加速することも考えられる」という。/980819:この通貨危機の背景には、国際石油価格の下落とともに、円安によるアジア経済危機の進行があった。ロシアの危機は、対ロ投資額の多いドイツのマルク相場などに影響しかねない。アジアでは、中国・人民元切り下げの観測も強い。米欧やアジアの金融市場に危機が連鎖する恐れもある。/980912:確かに、香港のペッグ制がいま崩壊すれば、中国の人民元の切り下げを誘いかねない。/981231:8%の成長目標は「保八(8%を守れ)」という言葉が生まれたほど、今年の中国経済にとって大きな数値となったが、1月−9月の実質成長率が7.2%にとどまり、実現は困難と見られていた。7%台後半を確保し、中国政府は何とか面目を保った形だが、急成長の陰りがはっきりしたことで、来年も内外の人民元切り下げ圧力など、引き続き厳しい環境にさらされることになりそうだ。/990126:【香港25日=永持裕紀】25日の香港株式市場は、中国の英字紙チャイナ・デーリーが24日、「人民元の切り下げもまったく悪いものではないかもしれないし、アジアの通貨切り下げの引き金にはならないだろう」というアナリストの見方を紹介したのをきっかけに、売り注文が殺到した。指標のハンセン指数は一時、先週末終値比400ポイント以上急落し、終値も同239ポイント安だった。

990126:同紙の編集方針は北京の中国当局の意向に沿ったもの。中国指導部はこれまで「人民元切り下げず」という公約を続けている。「方針転換の観測気球かと、午前中はパニック的な投げ売りも見られた」(地元の海悦証券)という。/990126:チャイナ・デーリーが前日、「人民元の切り下げは悪いことではない」と報じたことから、この日の台湾各紙は「中国メディアが初めて切り下げ容認発言」と一斉に取り上げ、不安を広げた。李登輝総統は16日の国民党投資事業シンポジウムで、「第3の金融危機は人民元から引き起こされる」と警告、大陸投資に慎重を期すよう要請していた。/990126:東南アジア各国の株式市場は25日、中国人民元の切り下げ観測が広がったことを嫌気して、軒並み下落した。/990126:アジア地域で最大の下落幅を記録したシンガポール市場は個人投資家の資金流入を受け、ストレーツ・タイムズ指数は今年に入って一時、1500ポイント台に乗っていたが、人民元切り下げ観測に加えて、利益の確定売りがふくらみ、約1年ぶりの大幅下落となった。/990211:広東国際信託投資公司(GITIC)の破たん処理で、対外債務を優先返済しない方針が打ち出され、金融不安も台頭している。人民元の切り下げ観測など、中国経済全体に対する先行き不安感もある。

990410:中国経済に不安説再び──人民元切り下げの懸念990410:WTO加盟の交渉の軸が、金融部門に移ることもあって、米国内では、経済の先行き不安と人民元の切り下げを結びつける見方が再び浮上してきた。/990410:国際経済研究所のゴールドステイン上級研究員は「中国政府は財政出動や低金利政策で景気を支えてきたが、今後はそれも難しい。金融緩和を進めると人民元の切り下げ圧力を強める」と心配する。/990609:中国の人民元切り下げ、米国の株価急落、日本の景気回復の腰折れを挙げており、「もしこの3カ国のどこかで深刻な事態になれば、アジア太平洋地域の経済に与える打撃は大きい」としている。/990620:「中国が再び輸出ドライブをかける」「やがて人民元切り下げにつながる」という心配が出始めている。

990903:人民元の切り下げ観測が強まり、「人民元切り下げは、特にタイの輸出力をそぎ、バーツ安を招く」との見方が広がっているためだ。/